青空

もうすぐ今年も終わりですね。

 

暗いニュースを追うことに明け暮れた1年。

日々の生活に細心の注意を払っていても、心の隅に棘のような不安を抱え続けた1年。

雨はいつも激しく降っていたし、風は冷たく僕らの身体を震わせた。

 

嵐の中を漕ぎ出した僕らの笹舟は、脆く頼りなく荒波の中を彷徨っている。手作りの櫂は無力に悲しく水を払い、踏ん張った両足は柔な船底を突き破る。

 

抗うことに、虚しさを感じた日もあった。

背中を向けて、逃げ出したい日もあった。

自分の弱さに、負けそうになった日もあった。

 

それでも、あなたがいるから。

 

まだ、空を見ています。

あの分厚い黒雲の向こうにあるはずの、透き通るような青空と、荘厳に輝く太陽に憧れて。

ずっと、空を見上げています。

 

いつか会えたあなたに、また会うことができると夢見て。次に会うときは、もう少しマシな笑顔を浮かべて、もう少し実りある言葉を見つけて、もう少しだけ……幸せを分かち合えるように。

 

ずっと、空を見上げています。

 

 

 

……ま、とかゆーてやな!

 

1年目、おかげ様でなんとか乗り切れそうですー🤩

京碁館に来てくださった皆様、行きたいと思ってくださった皆様、SNSにイイネをくださった皆様、そして愛するスタッフたち、本当に感謝!

 

今年の営業は12月29日まで。新年は1月4日からです!

 

来年はもうちょいブログも更新していきたいと思っていますー。            

                    (鉄)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秒読みの声

「いい加減にしやがれ。そろそろ覚悟を決めろよ」と勇次が言う。

「しっかり計画を立てましょう。慎重になるべきよ」と良子が言う。

 

俺は2人のアドバイスに耳を傾ける。

勝負は大事な局面を迎えている。

 

目前の小道は鬱蒼たる木々に囲まれて、先がまったく見えない。

毒を持つ野草には気を配る必要がある。

茂みから飛び出す獣も怖い。

底なし沼に足を踏み入れたら、一巻の終わりだ。

 

10秒

 

胃液が重力に逆らって上がってくる。

どうしても水を飲みたいのに手元にはコップがない。取りに行く時間がない。

おまけに背中が猛烈に痒い。最悪なことに、ちょうど手が届かない場所だ。

誰かの手を借りたい俺一人どこにも味方はいない意識が混乱する。

 

あれはパトカーのサイレンだ。大切な職務中だとは分かっているが異常に腹が立つ。

確かあのとき先生は良いことを言っていたに違いない。真面目に聞くべきだった。

コンゴ共和国の位置が分からない。ケニアにもジプチにも一生行くことはない。

別にペンギンに生まれてもよかったんだ。多分それなりに幸せだろう。

 

20秒

 

17のとき好きだったあの娘は4児の母親になったと聞く。

知らない誰かの幸せを願うほど善人ではないが、不幸を願うほど絶望してもいない。

勇敢な炭鉱夫はカンテラを片手に暗い世界を歩く。多くの部下がついてくる。

頭の中では桑田佳祐がずっとかすれた声で歌い続けている。

 

荒っぽい運転をする愛想の悪いタクシードライバーと口論になった春の日。

「あなたしかいないの」 彼女の言葉を無邪気に信じた夏の日。

証券会社の電光掲示板に張り付く、ヨレヨレのシャツを着た翁を見た秋の日。

イソップ童話を読み耽った冬の夜。「あの葡萄はきっと酸っぱくておいしくない」

 

右下の地が気になる。中央の断点は大丈夫だ。あの石は攻めたら取れるだろうか…。

 

30秒

 

確かジョンかポールが言っていたはずだ、イッツイージー

別に愛だけがほしいわけではない。そんなに若くない。

まるで明日を拒むかのように延々と酒を飲む。大切な会話は記憶から消える。

あのとき俺は隣家が燃えているのに、ずっと自分の部屋にいた。

 

堤防で猫と一緒に時を過ごしたときは幸せだった。

ヒステリックに結婚を迫り続ける彼女に飽きてきたけれども別れられなかった。

夢を語り合った親友はいま上司の愚痴ばかりこぼしている。

坑道の酸素は減り続けている。あの大石は取れるのだろうか?

 

50秒

 

「どこへ打っても変わらねえよ。もう決めてしまえ」と勇次がわめく。

「ダメよ最後まで考え続けるのよ。きっと素晴らしい手があるわ」と良子が叫ぶ。

 

桑田佳祐は必死に何かを伝えようとしている。

俺はそんなに立派じゃない。だけど最良の選択を迫られる。もう逃げ出したい。でも打つしかないんだ。

 

55秒、6、7、8…………

碁会所のK先生

碁会所席亭のK先生は自称七段の腕前で、いつもヘボたちの打つ手を容赦なく叱責していた。

 

 「そんな手を打っているから上達せんのや」、「下手糞のくせに早打ちするな」、「この程度の詰碁もできんのか?」

 

K先生は坊主頭の強面で、声も大きいから迫力がある。叱られた教え子たちは言い返すこともできず、肩をすぼめて俯くばかりだ。なかには泣き出しそうな顔をしている級位者のご婦人もいた。

この人に習って楽しいのだろうかと、子どもの僕はいつも不思議に思っていた。でも生徒たちは翌週もやはり碁会所に顔を見せていた。

 

当時の碁会所は喫煙可だったから、常にタバコの煙がもうもうと立ち込めていた。碁盤には灰の焦げ跡が何箇所もあり、誰かが落とした碁石は、そのまま床に落ちていた。棚の上には埃が溜まり、壁には色気のない成績表が乱雑に貼られていた。

 

K先生が客を笑顔で迎えることはない。席料を受け取る際に礼も言わない。店の宣伝もしない。お茶も出さないし、なんなら電話にも出ない。売り上げの帳簿があったのかも疑わしい。

 

それでも店は、大勢の人で賑わっていた。

近所にもう1軒、広くて小綺麗な碁会所があったのだが、そちらはあまり繁盛していなかった。

多くの客は、何故かK先生のところを選んでいたのだ。

 

子どもは、だいたい僕ひとりだった。

たまに他の子が習いに来ても、すぐに居なくなった。仕方がないので、僕はいつも大人に混じって碁を打っていた。そして、多くの子どもがそうであるように棋力は加速的に伸びていき、やがて自分より強い相手がほとんどいなくなった。そうなると自然に足は遠のく。

僕はもっと強い人がいる、他の場所へ通い始めた。

 

そのとき、K先生がどんな心境だったかは、知る由もない。

 

時は過ぎて大学生のころ、K先生から電話が掛かってきた。碁会所にはずっと行っておらず、存在すら忘れかけていた頃だ。「久しぶりに会おうや」

20歳になった僕を、K先生は飲み屋に連れて行った。K先生はものすごく上機嫌で、もう1軒、もう1軒とはしご酒を楽しんだ。それからは数カ月に一度は2人で飲みに行く、蜜月ともいえる日々がしばらく続いた。

K先生は帰り際には必ず、「嫌がらずに、また遊んでくれよな」と僕の手を握りながら懇願した。その頃のK先生は、もう以前のような強面ではなく、すっかり好々爺の顔つきになっていた。僕は割と楽しかったので、誘いがあればだいたい応じていた。

 

でも、あるときから電話は掛かってこなくなった。K先生の体調が悪くなったのだ。

 

K先生の訃報を聞いたとき、僕は特に何も感じなかった。

かなりの高齢だったし、寿命なのだろうなと思った程度だ。

既に碁会所は畳んでいたし、特にやり残したこともない、良い人生だったはずだ。

 

49日が過ぎてから僕はK先生の自宅に呼ばれて、奥さんから形見の碁石をいただいた。脚付きの碁盤も貰ってくれと言われたが、置く場所がないからと断った。

 

またK先生のことを忘れて、かなりの年月が過ぎた。

 

そして最近、僕は自分で碁会所をつくった。

全く意識していなかったが、僕はK先生の意志を継ぐ形になったのだ。ある日カウンター越しにお客様が碁を打っている光景を眺めているとき、ふとその事実に気が付いた。

 

そして唐突に理解した。

 

K先生は表情には出さなかったけれども、碁会所の扉が開くごとに大きな喜びを味わっていたのだ。生徒たちには本気で強くなってほしいと願って、厳しく接していたのだ。客が帰る際には、心の中で「また来てくださいね」と声を掛けていたのだ。

大人たちは、毒舌の奥にある、人に対する深い愛情をK先生から感じ取っていたのだろう。決して商売上手ではなく不器用だけれども、正直で一本気なK先生は慕われていたのだ。だからK先生の碁会所は多くの常連客であふれていた。そこは確かに小汚くて騒々しかったけれども、同時に居心地のよい実家のような場所でもあったのだ。

 

そして僕は、懐かしさに浸りながら、同時に不安も覚えた。

果たして僕もK先生のように、立派に自分の仕事を成し遂げられるのだろうかと…。

しばらく天井を眺めてから、目を強く閉じてかぶりを振った。

自信はないけれども、まあ頑張るしかないか。

弱音なんか吐いたら、天国の厳しい師匠に怒られるからな…。

 

そんなわけで、僕は明日も碁会所の扉を開く。

たぶん、あの日のK先生と同じ気持ちで。  (鉄)

碁会所をつくった

笑う月に追いかけられたわけでもないのに、僕は碁会所をつくることになった。

 

この業界に詳しい人には「正気か?」と呆れられたし、

この業界に詳しくない人にも「大丈夫なのか?」と心配された。

 

経緯は難しくない。

川の流れに身を任せてふらふらと漂う笹舟の行く先に滝があった。

それだけのことだ。

滝だって別に悪気があったわけではない。だって滝の方が先にあったのだから。

笹舟に文句を言われる筋合いはないだろう。

 

とはいえ物理法則的には、笹舟は滝を一直線に落ちていくことになる。

 

幸か不幸か軽い笹舟の身だから、滝の下に落ちても胴体が砕け散るわけではない。

また新しい流れに身を置くだけだ。

そして渦の中をぐるぐると回りながら、目眩に耐えるうちに妙な快感すら覚えながら、

なんだか分からないけれども新しい航海を夢見ることになった。

 

まだ緑色の、銀杏の葉がいた。

頑固そうな松ぼっくりがいた。

名前を知らない木の枝がいた。

桜の花びらが優雅に舞いながら落ちてきた。

 

笹舟は彼らに声を掛けた。一緒に流れていこうと声を掛けた。

付き合い始めたばかりの彼女との初デートのような、未知への期待と失敗への恐怖があったけれども、悲観的な感情は無視して、声を掛けてみた。

幸運なことに、別々の状況でぐるぐると回っていた渦の中の連れ合いたちは、

笹舟と同じ行き先を選んでくれた。

 

だから

 

喪黒福造に指を差されたわけでもないのに、僕は碁会所をつくろうと思った。

 

僕も、仲間たちも迷いながら進んでいる。畏れながら進んでいる。

そんな僕たちを哀れんだのか気に入ってくれたのか、いつの間にか見知らぬ草花や

木の実たちが集まってきたような気がする。

それは束の間の逢瀬みたいなものかも知れないけれども、とにかくいまは楽しく、気が向けば

陽気に合唱することさえ叶いそうだ。

釣り人が見たら邪魔に思うかも知れないけれども、どうか少しだけ待ってほしい。

すぐに通り過ぎるから…。

 

何が正しいかなんて分からない。

求めてはみるけれども、きっとそこには辿り着けない。

だいたい流れの先すら見えない。

いま言えることなんて、別に大して何もないのだけれども。

 

でも

 

笑う月に追いかけられたわけでもないのに、僕たちは碁会所をつくったんだ。

 

どうせいつか笹舟は壊れて消えてゆくのだけれども、しばらくは漂いながら陸の景色を眺めながら、水の中に入ってくる酔狂な友人たちを求め続ける旅路になりそうだ。

多分それで笹舟は充分に幸せだから、できるだけ水の中を素敵な場所にしていきたいと思う。誰かと誰かが笑顔を分け合えられる瞬間を、少しでも増やしていけたらなと願う。

 

皆様がここを訪れてくれる日を、心待ちにしています。

 

                            京碁館代表 大野鉄平

 

 

 

甘いもん。

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どーも皆さんお元気ですかー?
カラダもやけど、ココロも(*´∀`)

囲碁に限らんとおもいますが、アタマ使うと甘いもんが食べたくなりますよね(ね?ね♪)

京碁館のまわりには甘い誘惑がモリモリ。
だから受付をする時には絶対おやつ買っていこーとか色々考えていたのですが…

全然実現できず( ̄ー ̄)

仕方なく、普通におやつを楽しんでおります
↑単にたべたいだけ。

最近は京碁館の斜めむかい、suina1階のメゾンカイザーさんのエクレアにココロ奪われまくりです。
なんせオシャレ!
まるで自分が女子力高くなったかのような錯覚に、カンタンに陥ることができます(ノ´∀`*)

なかなか外には出づらい今日このごろですが、お近くを通る機会があれば、ぜひっ☆(な)

こんなの初めてーっ!

初めまして!4月1日にオープンする京都の囲碁サロン「京碁館」ですヽ( ̄▽ ̄)ノ
ホームページ開設もまだなのに、なぜかブログを始めてしまいました(*´∀`)
ゆるっと書いていこうと思います!
囲碁好きな方も、囲碁ぜんっぜん知らない方も、どうぞよろしくお願いいたしますー!